過去からの学び心理学

過去に受けた『評価の言葉』が自己肯定感を左右する?心理学的視点

Tags: 自己肯定感, 過去の経験, 心理学, 自己評価, 自己概念

過去に受けた『評価の言葉』が自己肯定感を左右する?心理学的視点

私たちは誰もが、成長の過程で様々な言葉に触れます。特に、幼い頃に親や教師、友人といった身近な人々からかけられた評価の言葉は、私たちの心に深く刻み込まれ、現在の自分自身に対する見方(自己肯定感)に影響を与えている可能性が考えられます。

なぜ過去の、時には遠い記憶となった言葉が、今を生きる私たちの自己肯定感を左右するのでしょうか。心理学的な視点から、そのメカニズムと、過去の評価と向き合うための一助となる考え方を探ります。

過去の評価が自己肯定感に影響する心理学的なメカニズム

私たちの自己肯定感、つまり自分自身の価値や能力に対する評価は、生まれつき備わっているものではなく、経験を通じて形成されていくものです。その形成において、他者からの評価は極めて重要な役割を果たします。

自己概念の形成:鏡に映る自分

社会心理学には、チャールズ・クーリーが提唱した「鏡像的自己論(Looking-glass self)」という考え方があります。これは、私たちは他者の目に映るであろう自分を想像し、その想像に基づいた自己評価を取り入れることで、自己概念を形成するというものです。

特に子供は、自分自身の客観的な評価基準を持たないため、身近な大人の反応や言葉を通じて「自分はどのような存在なのか」「自分にはどのような価値があるのか」を学びます。「よくできたね」「賢いね」といった肯定的な言葉は、自分には能力がある、価値があるという感覚を育む助けとなります。一方で、「どうしてこんなこともできないの」「あなたはいつもこうだ」といった否定的な言葉は、自分には能力がない、価値がないといった感覚を内面化させてしまう可能性があります。

内なる声(インターナル・ボイス)としての定着

過去に繰り返し聞かされた評価の言葉は、私たちの内面に取り込まれ、「内なる声」として定着することがあります。この内なる声は、意識的な思考だけでなく、無意識のうちにも自分自身に向けられ、自己評価に影響を与え続けます。

例えば、子供の頃に何か失敗するたびに「あなたは不器用だね」と言われ続けた人は、大人になってからも新しいことに挑戦しようとする際に、内なる声が「どうせ自分は不器用だから無理だ」と語りかけ、行動を制限してしまうような側面が考えられます。逆に、成功体験を十分に認められなかったり、常に完璧を求められたりした経験がある場合、内なる声が常に自分自身に批判的となり、「これくらいではダメだ」「もっと完璧でなければ価値がない」と自己肯定感を低く保ってしまうといったケースも見られます。

このように、過去に受けた評価の言葉は、単なる外部からの情報ではなく、自分自身に向けられた「内なる判断基準」として機能し、現在の自己肯定感に深く関わっていると考えられます。

どのような評価の言葉が影響を与えやすいか

自己肯定感に特に影響を与えやすい評価の言葉には、いくつかの特徴があります。

これらの言葉は、受けた側の心に「自分は不十分だ」「愛される価値がない」「どうせ自分には無理だ」といった自己制限的な信念を形成させ、その後の人生における挑戦意欲や対人関係、幸福感にも影響を及ぼすことが考えられます。

過去の評価と向き合うための心理学的アプローチ

過去に受けた評価の言葉が現在の自己肯定感に影響を与えていることに気づいたら、それとどのように向き合えば良いのでしょうか。以下に、いくつかの心理学的なアプローチの考え方を示します。

  1. 過去の評価の言葉を特定する: まずは、自分自身の内なる声として繰り返し現れる否定的な考えや自己制限的な信念の源泉を探ってみましょう。どのような状況で、誰から、どのような言葉をかけられたか、具体的なエピソードを思い出してみることが有効かもしれません。

  2. その評価の影響を客観的に分析する: 特定した評価の言葉が、これまでの人生や現在の自分にどのような影響を与えてきたのかを冷静に分析します。「あの言葉があったから、〇〇に挑戦できなかった」「あの言葉を聞いてから、自分は△△な人間だと思うようになった」といったように、具体的な影響を書き出してみることも助けになります。

  3. 内なる声に「反論する」練習をする: 過去の評価が内なる声として現れたとき、それを鵜呑みにするのではなく、意識的に「反論」してみましょう。その評価は本当に客観的な事実なのか?当時の評価者はどのような状況や意図を持っていたのか?今の自分は、その言葉通りの人間なのか?過去の評価に疑問を投げかけ、現在の視点から再評価を試みます。

  4. 現在の自分自身の価値を再評価する: 過去の評価は、過去の特定の時点、特定の状況における評価であり、今のあなた自身を定義するものではありません。これまでの人生で培ってきた経験や能力、人間関係、そして現在のあなたの存在そのものに焦点を当て、過去の評価から切り離して自分自身の価値を再評価することが重要です。小さな成功体験や、自分自身が良いと感じる側面に意識的に目を向けることから始めることができます。

  5. ポジティブな自己対話を実践する: 内なる批判的な声に対抗するように、意識的に自分自身に肯定的な言葉をかけましょう。「大丈夫」「よくやっている」「自分には価値がある」といった言葉を、心の中で繰り返したり、声に出してみたりする練習も有効です。最初は不自然に感じられるかもしれませんが、継続することで内なる声のバランスを変えていく可能性が考えられます。

これらのアプローチは、過去の評価に縛られた自己像から抜け出し、自分自身の価値を自分自身で認め、新しい自己概念を構築するための道筋となる可能性があります。

まとめ

過去に受けた評価の言葉は、知らず知らずのうちに私たちの自己肯定感に影響を与え、現在の自己制限的な信念や行動パターンの源となっていることがあります。これは、私たちが他者からの評価を通じて自己概念を形成する心理的な性質と、過去の言葉が内なる声として定着するメカニズムによるものと考えられます。

しかし、過去の評価は固定された絶対的な真実ではありません。それらが自分に与えた影響に気づき、その言葉を現在の視点から再評価し、自分自身に肯定的な新しい言葉をかけることで、自己肯定感を高めていくことは可能です。

自分自身の過去の経験と、それによって形成された内なる声に意識を向け、理解を深めることは、自己肯定感を育み、より自分らしく生きるための一歩となるでしょう。過去の評価に囚われるのではなく、現在の自分自身をどのように評価し、どのような言葉をかけていくかを選ぶことは、私たち自身の手に委ねられています。